2014.01.01

ブルーライトが忍び寄る(後篇)

ブルーライトが忍び寄る
ブルーライトカット眼鏡がフリッカー値に与える影響
ブルーライトが忍び寄る

眼の疲れ、眼精疲労は主観的な症状である。それを客観的に定量化したのがフリッカーテスト。フリッカーテストとは、遮光板を回転させ、明滅になった光を見てもらう。明滅の間隔が早くなると、光が融合し、いわゆるちらつきがなくなり、連続した光として感じてしまう。明滅した光として見分けられる能力(毎秒回転数=フリッカー値)を測定し、視神経疾患の診断に利用される他、眼の疲れを表す指標としても応用される。ブルーライトカット眼鏡の疲労軽減効果はグラフからも明らかになった。

ブルーライトが体内時計・サーカディアンリズムに与える影響

我々が海外旅行、取り分け地球の反対側のブラジルとか、ニューヨークとかへ行った時、時差ボケに悩まされた話しはしばしば聞かれる。しかし時差ボケは何も遠い地球の向こう側だけでの話しではなかったのだ。実は我々は日々時差に悩まされながらも、健気に戦っているのはご存知でしょうか。その謎を解くキーワードは「サーカディアンリズム」にある。

殆どの生物は24時間のサーカディアンリズム(生体リズム)を持つと言われる。しかし人間のサーカディアンリズムは24時間ではなく、25時間である(注4)。我々は朝にブルーライトを浴び、体内時計の針が進み、目が覚める。夕方はオレンジ光により、脳内の松果体から分泌されるメラトニンが増え、眠りにつく。つまり我々はこの1時間のサーカディアンリズムのずれを日光浴(ブルーライト)によってリセット、地球と同じサイクルの24時間サーカディアンリズムへ持って行くのである。近年は昼夜のない宇宙船で生活している宇宙飛行士の健康維持のために、人工的に明暗サイクルの付けられた環境が用いられている。

ブルーライトは諸刃の剣、体内時計を調整してくれる一方、本来なら安眠する夜中でも携帯・スマホ・タブレット・ゲーム機などをいじり、過剰にブルーライトを浴びると、体内時計の針がどんどん遅れてしまう。血中メラトニンの低下が見られ、不眠を招く。(注5)

(注4)
1965年ドイツの生理学者ユルゲン・アショフ先生が行った隔離実験によって報告された。彼は26人の被験者を外界から遮断した洞窟で1ヶ月間生活して貰い、その間の就寝時間・起床時間・体温・尿中カルシウムとカリウム量などを計測し、得られたデータを解析すると、25時間のサーカディアンリズムの曲線が導き出されたというのである。
(注5)
不眠が続くと、疲れ易くなる。思考力や活動意欲の低下、引きこもり、通勤・通学の拒否、延いてはうつの原因にもなる。こうしたサーカディアンリズムの乱れに伴う睡眠障害の改善にメラトニンの摂取が古くから知られる。しかし杏林大学精神神経科の古賀良彦教授は違う観点に着目、実験をし、不眠解消のヒントを得た。
彼は20~30代の女性14人を二つのグループに分け、2週間就寝前にスマホを1時間ずつ見て貰った。一方のグループにだけブルーライトカット眼鏡を掛けさせた。すると掛けなかったグループよりも、掛けたグループの方が平均睡眠時間で最長30分間伸びた。
ブルーライトカット対策
  1. 携帯・スマホ・タブレット・PCの明るさを調節し、画面の輝度を暗くする。(注6)
  2. ブルーライトをカットする眼鏡の装用。
  3. ブルーライトをカットする液晶画面用フィルムの使用。
  4. ブルーライトは体内時計を調節してくれるので、絶対悪ではなく、何時浴びるかが重要。携帯・スマホ・タブレット・PCの使用は寝る3時間前までとする。(注7)
(注6)

校医を務める小学校でブルーライトの話しをしたら、「今日劉先生のお話しを聞き、とってもためになりました。私も日頃子供の勉強部屋の明かりを暗くする努力をして来ました」、としたり顔のあるPTAの親から感想を頂いた。まったく逆です。

★★★部屋が暗くなると、瞳(瞳孔)が開き、ブルーライトが余計入る。
☆☆☆部屋を明るくし、画面を暗くするのがポイント。

輝度と照度は全く別な物として認識してほしい。じゃ一体部屋の照度をどの位明るくし、画面の輝度をどの位暗くすればいい。

《輝度》モニター画面から出てくる光の強さは輝度。文字や図像処理の場合、モニターの輝度は100~150カンデラが適切。写真や動画加工の場合、200~300カンデラが適切。

《照度》モニター画面・キーボード・デスク上への光の強さは照度。確保すべき照度の基準にJIS(日本工業規格)が示した照明基準(JIS Z 9110)がある(単位:lx=ルックス)。この規格を下回ったとしても、直ちに安全や必要な照度基準に違反したとして罰則を受けるものではない。

一方労働安全衛生規則第六百四条(昭和47年労働省令第32号)において、事業者は労働者を常時就業させる場所の作業面の照度基準が示されている。 この規定は労働災害を防止することを目的とし、事業者が守るべき基準を定めたものである。この基準に適合していない労働環境で災害が発生した場合、事業者が罰せられることがある。

作業の区分基準
精密な作業300lx以上
普通の作業150lx以上
粗な作業70lx以上

労働安全衛生規則 第六百四条 (抜粋)

(注7)
光の強さは光源からの距離の2乗に反比例する。従って遅い時間帯に、暗い部屋で至近距離から携帯、スマホ・タブレットを見るのが極めて危険。
特に子供の眼は大人よりも綺麗な分、透き通るため、ブルーライトの影響を受け易い。

(了)
(文責・劉 家華)